脳を包んでいるクモ膜と脳との間にある隙間をクモ膜下腔といい、脳脊髄液という透明な液体で満たされています。このクモ膜下腔に出血が起こった状態がクモ膜下出血です。約80%以上は脳動脈瘤の破裂によるもので、死亡や重い後遺症を残す場合が少なくありません。他に脳動静脈奇形や脳動脈解離などがクモ膜下出血の原因になります。ここでは頻度の高い脳動脈瘤破裂を中心にお話します。
1)症状
クモ膜下出血の典型的な症状は、バットで殴られたような「突然起こる激しい頭痛 」です。しばしば嘔気・嘔吐を伴い、出血が激しいと意識も混濁します。逆に出血が軽いと、風邪をひいたと勘違いされることもあります。動脈瘤の部位によっては認知症が前面に出たり、物が二重に見えたりすることもあります。
脳動脈瘤破裂によるクモ膜下出血では、診断が遅れると悲惨な結果に終わる可能性があります。その原因の第1位が再出血です。再出血は発症後24時間以内に起こることが多いので、クモ膜下出血が疑われる場合には速やかに脳神経外科専門施設を受診する必要があります。また出血後第4~第14病日には血管が細くなって血流が不十分になり、脳梗塞を起こす危険性があります(脳血管攣縮)。さらに水頭症を合併することもしばしばです。
2)診断
クモ膜下出血が疑われた場合は、CT検査かMRI検査を行って出血を確認します。CTでは白色の高吸収域、MRI(FLAIR画像)では同様に白色の高信号域として描出されます(下図)。出血が少量の場合や、出血から時間が経った時期においては、CTでは出血が検出できにくいことがあります。そういう時でも、MRI(FLAIR画像)では出血と診断できる可能性があります。場合によっては腰部から細い針を刺入して髄液検査をすることもあります(腰椎穿刺)。
脳動脈瘤の診断にはMRAまたは3DCTAを行います。MRAはMRI検査と同時に簡便に行える利点があります。3D処理を施すことにより観察しやすくなります。3DCTAはヨード造影剤を静脈に注入しながら撮影します(下図)。最近の3DCTAは脳動脈瘤の診断能力が高く、DSAに比べ迅速かつ低侵襲的であるため、緊急時などに行われます。術前のシミュレーションにも対応可能です。
脳血管造影(DSA)は、カテーテルを入れる操作などに僅かにリスクがありますが、現在でも最も確実な診断法とされています。足の付け根にある大腿動脈や肘の内側にある上腕動脈からカテーテルという細い管を頚部の位置にある頸動脈や椎骨動脈といわれる血管まで入れ、そこから造影剤を注入して血管の観察を行う検査です(治療の項目参照)。
3)治療
破裂した脳動脈瘤の治療においては、再出血の予防が極めて重要です。予防処置には外科的治療と血管内治療があります(下図)。種々の状況により予防的処置ができない場合には、血圧のコントロールや全身管理などの保存的治療を行います。水頭症や脳内に出血して血腫を合併しているときには、その対応も必要になります。最終的にどういう治療法を選択するかは、出血の重症度、瘤の位置や形状、年齢や全身状態などを総合して決定します。
再出血予防が終了したら、脳血管攣縮の治療を行います。クモ膜下腔に血腫を溶かす薬剤を注入する方法、血流を良くするために各種の薬剤を静脈内に点滴する方法、血管内から治療する方法などがあります。これらの治療は前述のように約2週間必要です。
開頭クリッピング術
動脈瘤頸部クリッピング術は、開頭して直接動脈瘤をクリップで挟んで止血する術式で、確実性(根治性)が高い方法です。頭蓋底部などのアプローチが困難な場合、また重症患者や高齢者には不向きな事もあります。
瘤内コイル塞栓術
動脈瘤コイル塞栓術は、脳血管造影と同様なルートで細いカテーテルを瘤内に誘導し、コイルを詰めて動脈瘤を治療します。開頭クリッピングに比べ低侵襲であるため、重症患者や高齢者でも多くの場合で施行可能です。ただし、動脈硬化が高度な場合や瘤の形状などにより実施が困難な場合もあります。